法務ママ・法務女子のススメ

前回のエントリーから4ヶ月以上も開いてしまった本ブログ。というのも…6月の第2子妊娠発覚以来、つわりによりPC前に向かうことがまったくできなくなっておりました。
さて、書きたいネタは色々あるのですが、法務パーソンは男性陣が多いということから、女性目線でしか書けないであろうネタを書いてみたいと思います。
結論からすると、法律に触れながら企業で仕事をしたいと考えている女子。企業法務という職種はなかなかオススメです。*1


時間と場所に拘束されない働き方が実現できる

ワークライフバランス」が叫ばれて久しいですが、大手でもない限りそうそう実際的な変化を実感しない言葉です。
結婚・出産を望む多くの女性にとっては、20代後半〜30代という仕事で中核を担う時期に出産・育児というキャリアの寸断が発生します。また、育児休暇からの復帰後も出産前と同じようには働けません。保育園からの不意の呼び出しにいつもドキドキしながら、いつでも呼出に対応できるように、納期前倒し・業務進捗ガラス張りの中でハイスピードで業務をこなすママは少なくないはず。


ここで、法務であることの一つの利点は、時間と場所にかかわらず常に仕事ができるということ。法務の仕事にも契約レビューや法律相談などの「サバキ系」の業務と法令改正等の情報発信や社内教育、法務観点からの社内カイゼン提案などの「シカケ系」の仕事があります。
このうち、後者については時間も場所も制約が小さいです。まずは落ち着いて情報をインプットすること、それを自分の言葉に変換してアウトプットすること。これは子供が寝た後でも自宅にてできます。
かえって会社にいると相談を受けるばかりでこのあたりの仕事がおろそかになりがちではないでしょうか。“社内でいつでも相談を受けられる状況でない”は“自宅で落ち着いて手薄な業務を補える”にも転化可能なのです。*2

「企業法務」といってもコーポレート法務から取引法務等々様々あり、勉強する対象には事欠きません。法務としての10年強、自分の未熟さに痛感する日々であり、あれもこれも勉強したい、でも依頼案件をさばかなければならないといったジレンマに何度も陥っています。


妊娠経過が順調ならば、2012年の1年間は産休・育休を取得予定の私。
もちろん、出産・育児は命がかかった大仕事であり、自分の時間というのは非常に少ないのですが、その少ない時間で今から何を勉強しようかとワクワクしています。大学院ゼミへのもぐりこみやお世話になっている教授のお手伝いもしようかと。あわよくば、稚拙でもいいからパブコメや論文にも挑戦してみようかと。
おそらく会社生活最後の長い休職期間を「キャリアの寸断」ではなく「キャリアの拡充」という時間に充てる可能性があるのも、法務ならではの強みだと思います。*3

女子力を活かせる

女子スマイル!

企業にもよるとは思いますが、やはりいまだに男性社会である企業が多いでしょう。となると、案件が重大であればあるほど、法務の社内クライアントの多くは男性となる可能性が高いです。
私は法務スタッフの社内1号なのですが、当時「法務」などという言葉は認知されていません。当然仕事の場はなく、教育制度もなく、ただ法律書を読みながらひたすらデスクを暖める日々でした。

どこからか「契約書を読んでくれる奇特な社員がいるらしい」という噂を聞きつけた社員からの初の契約書レビュー依頼。…そうは言っても、新卒社員。民法の基礎はそれなりにわかっても製品のことやビジネスのことはまったくもってわかりません。
私は院卒であることも重なり、頭でっかちになりそうなところですが*4、女子が先輩男子にモノを尋ねるということに躊躇はありません。
長年の女子人生で「先輩、教えてください☆」は慣れていますし、先輩が快く質問に答えてくれるための経験値もある程度備わっている(…はず)。「すみません、わからないので教えてください。」と20代半ばの女子に笑顔付で教えを請われれば、たいていの社員は熱心に教えてくれます。
そして、教えていただいた内容を無駄にせず、契約書に少しでも落とし込む努力をする。その繰り返しでちょっとずつクライアントが増えてきます。

入社して早いうちに取締役、管理職、各部キーパーソンに直接教えをいただける機会というのは法務ならでは(一人法務や少数法務に限定した話かもしれませんが)。そして女子だとそのハードルがさらに低い(…多分*5)。
男女はすべてにおいて対等であり、平等であることは不可能だし、そうである必要もないと思います。

母ならではのリスクセンサー

結婚して、子供をもって思うことは、男性と女性では子供に対する危機察知能力が異なるということ。産まれたばかりの子供を横に、夫婦で寝ているとき。母親は子供がちょっと「ふにゃ。」と言っただけで目が覚めます。これに対し、父親は子供がどれだけ泣いていてもまったく目を覚まさない人が多いとか。悪気はなく、本当に気付かないのだそうな。*6

法務という仕事、会社が目指すビジネスに関し、各案件において事業部が気付かないリスクを抽出し、その低減策や代替策、リスクテイクをアドバイスをすることが使命のひとつ。
そのためにはまずはリスクセンサーが高いことが必要だと思われます。その人の生い立ちや入社後の鍛えられ方にもよるのでしょうが、新生児を育てる中でこのリスクセンサー力はかなり強化されます。子供の死亡原因の第一位は家庭内での事故だと、検診や育児教室の度に刷り込まれます。
家庭内が安全な場所になるように、母親は絶えず目を配ります。母性本能のなせる業なのか、出産後の方が先回りして細かな気配りをしてリスクを探す能力が向上したように感じます(私の課題は、察知したリスクをコントロールする能力の強化ですね…)。

ある意味での「軽さ」の獲得

新生児には言葉が通じません。
本能だけで泣き叫ぶ赤ん坊に対し、途方に暮れて泣くこともしばしばです。そんな貴重な体験後に会社に復帰すると、勝手とも思われる依頼者も、どれだけ伝えても耳を貸してくれない人も言葉が通じるからには手段があるはずだと前向きになることができます。

産休・育休の約1年間は喜怒哀楽が限りなく凝縮された期間です。「全身打撲(内臓編)」ともいえる産後の体をひきずり*7、泣き止まない我が子とマンツーマンの日中。楽しいと思える過程・子供の個性は本当にそれぞれであり、気が強く仕事では泣いたことのない私も、この期間には何度も大号泣をしました。

そんな期間を終えるとまさに怖いものがなくなります*8。今までは苦手だったと思っていた人にもアタック、厄介そうな仕事にもチャレンジ!出産の痛みよりも、育児で感じた困難よりも大変なことはそうそうないと思うことができるため、軽い気持ちで重い仕事に当たることができます。私自身を振返ってみれば、復職後に仕事のハードルが確実に下がったと感じます。




以上、えらそうに書きながら娘が5歳になると忘れてしまっていたことも。最近は実践できていないことが多いと反省(特に「女子力」あたり)。
さて、もう一度法務ならではの強みやありがたみを意識して仕事に取り組もう。


あ、ちなみに女子の方が法務に向いているという趣旨ではありません。女子ならではの課題を克服することができる職種ではないかな、と感じるこの頃の思いをつぶやいてみました。


<オマケ>法務ママの変わった活用法

法務パーソンがママになろうとするとき。
普段から法律や契約書を読むことが仕事ですから、労務業務には直接携わっていなくとも労働法や社内規程を読むことはまったく苦になりません。それどころか、いつもは事業部門のために契約を読んでいるのに対し、自分のために条文・規程を調べるのですから、いつも仕事上留意している「現場感」を肌で感じながら、否が応でも徹底します。
法令と社内ルールの差を確認し、法令で禁止されていないことは積極的に提案します。*9

このあたりは経営層の意向も汲んで人事制度や福利厚生を設計している人事スタッフとは少々観点が異なります。妊娠したけれど、社内のルールがよくわからなくて…なんて方は、社内の法務ママに相談してみることをオススメします。社内ルールに加え、法令や行政ガイドラインも熟知したうえで制度変更も含めた戦略的な提案をしてくれる…かも(保証の限りではありません)。

*1:もちろん、これからは弁護士資格をもって企業法務に就職ということも大きな選択肢になってくるでしょう。ただ、個人的には現時点では必須でないと思います。

*2:ただし、このあたりは謙虚に上司に伝えられるプレゼン力が必要ですね。

*3:実際は産後数ヶ月は自身の体調が回復しないうえに、3時間連続で眠れたら御の字、という限りなくテンパる時期ではありますが、寝た隙にできることもあるのです。

*4:そして実際にそうだったとは思いますが ^_^;

*5:期間限定かも?

*6:http://www.narinari.com/Nd/20091212702.html

*7:特に産後の肥立ちが悪かった私には体力的にも相当辛かった…(涙)

*8:前からでしょ、という突っ込みはさておき。

*9:私の場合、第1子の育児休暇終了の数ヶ月前から社内規程の改変案も添えて提案したり…。もちろん、タイミングを計り、謙虚に、会社のメリットも添えて提案します。