「まさか?!」の探し方。

@dtkさんからマイクをいただきました。手のひらの歌詞をカンペに階段を降りたいと思います。
さて、無謀にも今年も登録してしまった「Advent Calendar」。法務:人事ほか=3:7くらいの現状ですから*1、新しいネタを仕込むこともできず、新人法務スタッフ向け的エントリになりました。「とある会社の、とある法務担当が行っていること」をまとめてみましたよ!

今期、法務にめでたく新入社員が配属され*2、順調に業務を進めてもらっているのですが、契約業務というよりも新企画の取引やリスクのトータルデザインがなかなか難しいのかなと思われます。ということで、リスクの抽出は、場所や時を“動かして”考えてみてはどうでしょう、というテーマです。契約業務といっても契約書ドラフト・レビューそのもので「違い」を生むことはそう簡単ではなく、契約以外のところに手当をどう密かに仕込んでおくかに業務の比重が移行しているように思われます。


完全なる当社比、かつ主観で申し訳ありませんが、この数年、法務案件でも“vuca”を痛感しています。不安定で変化が激しく(Volatility)、先が読めず不確実性が高い(Uncertainty)、かつ複雑で(Complexity) 曖昧模糊とした(Ambiguity) 世の中と言われますが、法務に寄せられる企画案件もまさにそのもので、以下、最近メーカーの法務として感じている傾向です。

<メモ>
・ハードウェアではなく、サービスが主役化している。
ハードウェアは「入口」であり、極端に言えば単なる「箱」であるものも多い。SPOT売買+保証期間で御免!では成立せず、サービスをいかに継続するかが重要ポイント。
・当事者が複雑化している。
ハードウェアベンダー、ライセンサー、生産外注先、開発外注先、販売会社、最終顧客・・・という従来の当事者に加え、最近ではスマホアプリも当然に必要だったり、サービサーが複数登場したり、かつそれらが従来以上に有機的に連動しているため、どこか1社の業務が停滞したときの影響が大きい。
プラットフォーマーの変化が激しい。
スマホアプリがその典型ですが、OSが頻繁にアップデートされたり、密かに細かな仕様が変わったりするため、ソフトウェア開発完了で契約完了、とはいかない。いかに他社の力も借りながらG社さんなどの細かい動きに遅れずについて行き続けるか。

さて、そんな中で手を事前に打って事後の「まさか?!」をつぶしておくか。

(1) 流れの中のリスクを把握するために、線をつなぐ。

【横】

取引のパーツを横に動かします。当事者相関図を書き、そこに人・モノ・お金・情報・権利・サービスを流していきます。この際、最上流から最下流、派生する関連企業・再委託先まで丁寧に拾っておき、欄外に脅威となりうる特許権者も書いておきます。全体の流れの中で、自社のみがリスクを負うことにならないか、適切に分配できるリスクはないか。価格にONせざるを得ないリスクはないか。これは、大きなリスクを拾う作業になりますね。

<コツの一例>
・資本金は必ず、場合によっては社員数や親会社も記載します。「下請事業者だったの?!」「エースエンジニア欠いたらどうなるの?!」と後から気づくとげんなりすることも。
・実際には多数の交渉が同時並行で進みますが、その中でもこの会社からこの保証を得られない限り、他の交渉を進めてはいけないというポイントをおさえます。
・社内担当の名前も記載します。社内担当がハードルそのものということもあります。
・それぞれの当事者に吹き出しをつけ、その人になりきったつもりで台詞を書いています。ユーザーの年代、性別、使用するシーンとその感情・・・などを考えると製品への期待値がイメージできるので、下流から上流に再度戻るヒントになることもあります。

【縦】

時系列で取引のより細かいパーツを流します。主要な当事者と自社の関係を、発注から納品、アフターサービスまでを動かしてみます。いつ、どんな帳票を動かして、どのように受領して、どう梱包して発送するのか。個人情報はどうやって受け取って、どう加工していつ廃棄するのか。小さなリスクを拾う作業です。事業部はモノ・お金は書いてくれても情報を落としがちなので、情報の一生は必ず念頭に起きます。

(2) 点に対する時の変化を想像する。

流れの中で起き得る「まさか?!」を把握できたらば、点で考えます。静かに、じっくりと。

【ヒト】 〜この人、「まさか?」の種を持っていないか?

当事者図の中で、変化が大きそうな人はいないかを考えます。特に最近気になるのが、小さいけど良質の技術を有している会社。財務基盤が脆弱だからと避けていては、リスクヘッジのためにと商社等を介在させていては、スピード面からも他社との違いは生み出せない。経験上、痛い思いもし、怖いなと実感するのは、利用権の登録制度がないソフトウェアのライセンサー/開発ベンダーです。仮にソフトウェアベンダーが倒産したり事業が停止したりしても、自社ビジネスを止めないために色々と検討します。

<検討メモ>
ソースコードおよびその関連ドキュメントの権利を確保する(全部の譲渡/一部譲渡/共有)*3。この際、既にSofticに譲渡や質権設定等が登録されていないか、必ず確認する。
・Softicへ登録する(二重譲渡の危険性がある場合は特に。)。
・カスタム開発の場合、コード上も従来部分とカスタム部分を明確に分け、後者のみ権利譲渡を受ける。
ソースコードの現物を確保する。※開発途中でも段階的に確保。
・少なくともエスクロウ制度を使って最低限バグ修正はできるようにしておく。
・以後、自社で改変しやすいコーディングにしてもらう*4
・一括ライセンスにする。「未履行」と主張されうる条項は別契約にする。
・代替可能な他社との契約準備を平行して進めておく。     ・・・などなど。

権利を確保するという法的な側面と、自社で改変可能にしておくという実態をにらんだ側面の両方を意識しておくことが大切なのかなと。他にもまだまだあると思うので、案件発生の度に他に対策はないか?を考え続けています。あ、この際、下請法の配慮も忘れずに。

【モノ】 〜この「モノ」、誰かの「まさか?」を生まないか?

ユーザーの期待値との乖離を生まないか。社内から新規ビジネスの相談を受けた時点で、たとえそれが契約書の相談であったとしても、踏み込んで製品パッケージ、取説、広告媒体などの企画もあわせてチェックします。この際、リアル店舗ECサイトで品定めをするところから、パッケージを開けて実際に電源を入れて・・・という一連の流れを想像します。その際に、ターゲットユーザーの「ん?」が生まれないか。
上述の通り製品といっても長期サービスが付帯することも増えてきたので、現在のユーザーとともに、製品耐用年数から考えられる将来のユーザーや市場の期待をイメージしています。未来から今を見る感じでしょうか?「現在5歳のお子さんがいるユーザーの5年後の親御さんの期待は?」「5年後にこの製品の廃棄ルールはどう変わりそう?」などなど。製品クレームは数年後に炎上することも多かったりするので。



事前に未来の「まさか?!」を把握して手を打つことで、取引できる企業の幅が増えたり、実現できるサービス範囲が広がったらば。きっと法務担当の皆さんは同じように考えているんじゃないかなぁと思いながら、いつもながら最新トピックも何もない徒然エントリを書いてみました。
まさに現状書けることを書いてみただけなのですが、こういうのもきっと、ありなはずです(・・・よね?)。では、猫科つながりで明日はタンザニアネコさん(@Tnatz2010 )へ!

*1:当初、「法務と人事の間で」的なエントリを考えていたのですが、Advent Calendar 初日から法務キャリア論が盛り上がっているので、ちゃんと考えてアップしようと思います。

*2:しかも待望の法務女子!地方で法務女子はわりとレアキャラです。

*3:契約書で考えられる対策として、著作権全部の譲渡/一部の譲渡/持分の譲渡/複製権等、必要な権利の持分譲渡など。ただし、未履行の双務契約として契約そのものを解除されることもあるため、牽制的意味合いにとどまるかもしれません。

*4:これは契約書を作成するときにも通じるかもしれません。後々修正しやすい条項の建付けとしておくという配慮、皆さんされていますよね。