法務チームでOKRをやってみた。

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12月にお借りしたい、猫の手。

 放置しまくっていたブログを今さら開くのもなんだかなぁ…と思っていたところに裏legalACなるものができ、裏ならばということで、裏 法務系 Advent Calendar 2019 - Adventar、ひと枠お邪魔いたします。

 昨晩、次女の主張でハンバーグが見送りになり、ハンバーグ画像を諦めた矢先、ゆかぺさんからのバトンで美しき猫の手の写真を載せることができ、もう2019年の仕事を終えた気分です。

 

さて、あまりに久々の更新なので、まずはちょっと自己紹介をいたしますと、一人法務として地方のメーカーに入社、取引法務をメインに、その後なんとかチームと言えるプチ法務になりました。この数年は人事やコーポレート法務もかじりつつ、総務・人事・法務のマネージャー的な仕事をしています。

この数年、人事業務のウェイトが高くなり、特に最近は人事制度の見直しも行っていました。そのような中で、目標管理に関し「OKR」を法務でも試してみることになりました。Googlefacebook、日本であればメルカリが導入したということで、ちょっと流行っぽくなっている「OKR」ですが、流行りに乗ってOKRを導入したというわけではなく、長い長い自社分析ののちに、導入することになりました。これを書くと人事ブログになってしまうので、今回は法務への適用をメインに。

 

OKR?

OKR(Objectives & Key Results)って何だっけ?という方のために、すでにあちこちにて記事になっていますが(たとえばこちら)、従来よくあるMBOとの違いは以下のようにまとめられます。

  • 挑戦的な内容を設定 ≠現実的・保守的な内容
  • 70%程度の達成でOK →100%達成しなくてもOK=失敗が許される
  • 設定頻度は短期間(3か月)
  • 毎週、進捗を管理し、フィードバック
  • 全社に公開

 

法務と目標

法務って、目標を立てること、難しくありませんか?法務に限らず、管理部門はみなその側面があるとは思いますが、明確な売上や新製品のリリースという可視化される実績がない、または実績を作りにくい。

で、私の場合はどちらかというと、積み上げでした。*1 自分の身の周り(近似発生したトラブル対応や相談が増えた類型等)と、想像しうる範囲の近未来(法改正や事業の拡大エリア等)をベースに、“何ができるか?”・“何をしなくてはいけないか?”から目標を立て、普段のサバキ仕事(≒相談案件)の合間に、シカケ仕事(≒企画・提案テーマ)を挟んでいくというように日々が回っていたと言えます。とはいえ、このやり方では、忙しい日々に、さらに仕事を“下ろす”ことになり、メンバーが疲弊する。いつの間にか目標を立てることすらままならなくなっていました。

 

 OKRを試してみた

その後、法務チームでワークショップをしたり、ありたい法務像を言語化したりするなど色々と試してみたのですが、どれも今一つうまくいかないところに人事制度改定の話が進み、OKRを試してみることになりました。

 

<OKRの設定ステップ>

  • 自分たちがありたいチーム像(O=Objective)を定性的に言語化する
  • その状態になりうる仮説を立て、それを実現する指標(KR=Key Result)を3つ設定する。

 新しい事業年度が始まるとき、目標はすでに立てているものだとは思いますが、設定に時間をかけ、第2四半期に入ってようやく実行開始となりました。特にObjective設定に時間を要し、「O」を見たら「ああ、あの会社の法務チームだね」とわかるレベルになるまで自分たちの言葉で表現するということを徹底しました。

OKRを進めるにあたっては、他部署から自分たちが立てたObjectiveに率直なフィードバックをたくさんもらいながら、つまり、かなりのダメ出しをされながら、反論したい思いをぐっと飲み込み、ダメだしを受け入れ、さらにメンバー全員で言葉を磨いていくという2か月でした。

結果、私たちのチームが目指す情景がありありと浮かぶ、唯一無二のObjectiveが表現できたのではないかと思っています。何といいますか、チームの中から“削り出した”という感覚があります。 若いメンバーも、みんなと向かっている方向が一緒だとわかってほっとしたようです。その様子を見て、私自身も本当に、ほっとしました。“情景がありありと浮かぶ”ということが、今後の実行段階で「目指す状態に近づいているのか?」という問いをチームに生むことになるので、これが何より大事だと思います。

 

Objectiveが定まったら、それを実現するための流れを考えます。これはいわば、法務戦略を立てるということです。いつもの延長線上だと、「●●法改正に対応しないと。」、「できればそれを契機としてセミナーもやろう。」、「改正内容から、新サービスを考えられないかな。」という感じで、自分たちなりには結構考えているつもりで話していたのですが、あくまでもソリューションありきの単発の発想でした。そうではなく、目指す状態(Objective)に近づくために、どんな因果が回ればよいのか、そのためにこれが達成したら回ったと言えるのではないかという指標(KR)を考えます。ここでのポイントは、自分たちの従来の前提を一旦保留し、「やるべきだ」と思っていることを横に置いて、“本当に成果が出ることは何だ?”と問い続けることです。ここで「やるべき」に囚われると、従来のMBOと大差のないものになるように感じました。

 

最終的に立てた指標は、非常に既視感のある内容でした。チーム全体の品質を保ちながら時間を短縮する施策を実行すること。サバク時間をシカケル時間に振り替えること。既存ルールの枠を超える提案を行うこと。*2ただ、思いつきで3つを抽出したわけではなく、目指したい状態を想像しながら、単発ではない、相互に関連した指標を総合的に全員で追いかけるので、自分たちで決めた指標が従来とそう変わりのないものであっても、チームにとっては、非常に新しいと感じることのできる内容でした。

 

始めてみて 

まだOKR実行後数か月しか経っていませんが、チーム内で明らかに変化が見られ始めました。 

 

メンバーの時間の使い方が変わった

マネージャーならば「主体的に動いてほしい」ということ、口にしたことがあるのではないかなと思います。でも、「主体的に動け」って、すでに主体的ではない。私自身も、メンバーを励ましたり、厳しくしたりしながら、どうにか自主的に動くようにと試行錯誤してきた数年でした。が、OKRが始まってから、メンバー全員が自らシカケるための仕事の時間を自然と作り始めました。

それでも、相談に忙殺され始めるとまた元の忙しいだけの日々に戻るので、「それって、近づくための時間になってる?」と声をかけると、メンバー本人の中で、問いが駆動するようです。

 

チームの課題が見えてきた

Objectiveに近づくためのTaskを実行しようと思うと、日常業務に追われていては、着手すらできない。実行し始めて、2週間ほどですぐに気づきます。何に時間がかかっているのか、どこに悩みがあって進まないのか、今までのやり方をどう変えたらよいのか、時短のために使えるツールやリソースはないのか。

リーガルテック、いくつもデモを受けた後、採用したものがなかったけれど、とにかくいくつかのサービスを試して、1分でも捻出しよう!という方向に舵を切りました。

 

視座が自然と上がってきた

どうしたら、“効く”・“インパクトを生む”法務チームになるのか?とみんなで考えると、上述の通り少ないリソースをやたら思いつきの施策で奪う訳にはいかない。自社の事業構造のカギはなんだ、この事業のキモはなんだ、この契約の核は…、視座が自然と上がっていきました。若いメンバーも含め、チーム全員で一緒に偉い人に話を聞きに行くことはこれまでになかったことで、何とかもっと本質的に、俯瞰的に捉えようという行動に変化しています。

 

アウトプットにこだわり始める

毎週、Objective実現に向けた進捗を確認するので、アウトプットがないと、非常に物足りない思いが生まれます。今まで手を付けてこなかったテーマについてもとにかくアウトプットしよう、ベータ版をリリースしよう、とにかく出そう、出すからには短時間でも濃縮してインプットしよう、となっていきました。

日々の契約レビューの回答もアウトプットの一つであることに違いはないけれど、ありたい状態を自らの中から削り出し、その状態に近づこうというマインドになったメンバーにとっては、“それだけでは、違う”という感覚が短期間でも染みついているようです。

 

 

と、まぁ、よいこと尽くしのようには見えますが、やっぱりしんどい思いもあります。高みを目指すと息切れもする。そして、70%の達成でOKと言いながら、現時点では遠く及びません。設定値が高かったのか、やり方がまずいのか。そもそも、立てた仮説が誤りだったのか。3か月という期間を終えたところで、仮説の検証に入る予定です。

法務の方々、勝手なイメージですが、こうありたい、誰かのためにこの価値を実現したいという思いが強い方が多いのではないかと感じでいます。とすれば、高みをいかなる戦略で実現するか?という思考になるOKRはなかなか合うのではないかなと思った半年でした。

実例を具体的に載せられたらもっと伝わるんだろうなと思うのですが…。抽象だけでは、今一つ伝わりにくいですよね。地方におりますが、法務のみなさま大歓迎です。懇親会が主目的の、一人法務やプチ法務たちが集まる勉強会を時折やっておりますので、ぜひ遊びに来てください。表(裏だけど)には書けない話も、是非ぜひ。

 

 

では、Subaru.Tさんに、バトン(猫の手)をお渡しいたします。これで、猫の手も借りたい12月にはならないはずです!

 

*1:数年前のエントリではこんなことを書いておりました。

*2:実際には、3つともに数値を設定しています。