法務出身、総務・人事なんでも屋の悩み 〜相談・通報への対応〜

「法務系AdventCalendar2017」 のエントリです。)


元々取引法務をメインとしていた私ですが、数年間から法務以外の業務も行うようになり、総務・人事業務比率が高まったな…と思ったら、今年は苦手分野のコーポレート系業務も降ってきました。この数年、純・法務業務は政治案件(?)以外、ほぼメンバーに任せているのですが、そのような中で緊急に時間を割かざるを得ないこと、それは内部通報や人事へ寄せられる相談の対応です。
今回のエントリは、人事も所管する、相談・通報窓口担当者の対応の流れのひとつのサンプルとそれに伴う悩みを書いてみました。法務スタッフが通報窓口担当になることも多いだろうと思いますが、人事側から法務の役割も見てみたという感じでしょうか。

1. 相談の種類

相談の種類は単なる人間関係の悩みというか、愚痴のレベルから不正の告発まで様々です。おそらく多くの通報・相談窓口担当の方は、「こんな愚痴のような相談もか…」と思いながらも、その相談の奥に何らかの問題があるのではないかという思いを持ちながら、真摯に対応をされているのではないかと思います。最近の傾向としては、ハラスメント系の相談が増加していると感じています*1

2. 相談の契機

人事も担当するようになって知ったのが、人事から法務に相談する件は、氷山の一角だということ。内部通報窓口への通報であり、法務スタッフも窓口担当であれば、当初から法務の知るところとなりますが、それよりもずっと多いのが非公式な相談・通報です。

  • 内部通報窓口への通報
  • ハラスメント窓口への相談
  • 会社への具申制度を利用した相談
  • 人事担当者への非公式な相談
  • 人事担当のヒアリング時の相談


また、積極的に相談が寄せられなくとも、人事は社員の変化の兆しをデジタルでもアナログでもウォッチしています。変化から声をかけ、何かしらの問題が発覚することもあります。

  • 人事が管理するデータに基づくフラグ 〜時間外勤務の増加、欠勤の増加、その他人事が行う定点観測データ
  • “なんとなく、おかしい”というフラグ 〜口コミ情報。
  • 新入社員、休職明け社員、異動直後社員などなど 〜不安を感じやすい環境にある社員

3. 相談の対応

相談があった場合には、以下のように対応しています。フルコース調査が必要な場合は、当初から法務スタッフにも声をかけることもありますが、より簡易的な場合、特に情報の非公式性が高い場合は、ある程度の調査が終わった段階で追加調査前に念のため声をかけ、懲戒処分を行った場合に処分対象者が納得できずに、または逆に行わなかった場合に通報者が不満を持って、後々トラブルにならないように…というところを一緒に検討します(現状の私の場合、法務も人事もカバーするので、人事と法務で役割の切り分けも何もないのですが)。

  1. 相談内容の把握
  2. 調査チーム編成(利害関係人の排除、調査対象との関係からより“黒子的”に動けるメンバーの選抜等)
  3. 上席への第一報(会社規模により、担当取締役、社長まで様々?)
  4. 初動調査(簡易的な客観データの収集、周辺ヒアリング等。調査の範囲・時期等は相談/通報者に事前告知)
  5. 中間検討(初動調査を踏まえて、弁護士への相談、本人への聴取等)
  6. 本格調査(より広範な客観データの収集、周辺ヒアリング)
  7. 追加調査(本人への聴取を受けて、弁明の裏付け調査等)
  8. (結果によっては)懲戒処分(懲罰委員会の開催等)

4. 対応上の悩み

(1)動くと目立つ
「“黒子的”に動けるメンバー」と書きましたが、「法務」のイメージが濃い社員が動くと、目立つものです。ハラスメントの当事者以外に周辺ヒアリングを行おうと思っても、“何か法令違反をしてしまって、呼び出されたのか?”とひやひやさせてしまうことも多々あります。

(2)ヒアリングの難しさ
例えば経費の不正支出の場合には、事実ベースでの確認になりますが、ハラスメントの場合には、いつ、誰が、どんな発言をしたなどの事実のほかに、それを聞いてどう思ったか、自分なら耐えられるか、厳しい発言でもやむを得ない事情があると思うかなどの感情も確認します。事実ベースのときにはメモをとることに抵抗はないですが、感情を聞くときに、せっせとメモをとると話しにくいだろうということで、一通り聞いてから、忘れないうちに一気にまとめるというようにしています。法務に寄せられる、取引の相談事案でヒアリングをするときとは臨む姿勢が違うといいますが、話しやすい雰囲気作りに配慮しながらも、共感しすぎず、ニュートラルを保つ…思いのほか難しいです。
また、ヒアリング協力者から、思わず人間関係上の相談を受けることもあるのですが、「黒か、白か、グレーでも違法に近いか否か…」という発想をしてきた身には、玉虫色というなんともいえない曖昧さを飲み込む力が足りません。グレーはまだ単色なので扱いやすい。複数人の様々な感情が混ざり合う案件は、人間力を問われている気分です。

(3)懲戒処分
懲戒処分を行うこと、ハラスメント関連の場合、明確に法令違反となる不正の場合と異なり、常に悩ましい思いがつきまといながら、進めます。ここで特に、平等性と相当性に悩みます。平等性については社内の過去の懲戒処分との比較をするほかないのですが、懲戒処分の過去件数が多くない場合には少々苦慮します。「処分見送り」ならまだしも、懲戒処分のための会議体にかけることすらも見送られた場合の記録がない場合には比較が難しい。今は、DBを作成し、些細な案件でも「処分検討見送り」の記録を必ず付すようにしました。

(4)担当者の疲弊感
個人のドロドロとした主張を受け続けて、感情に飲み込まれそうになるとき、個人の非常にセンシティブな情報に触れざるを得ないとき、どれだけ主観を排除し、客観的に公平だろうと思われる判断を下しても、禍根を残すことにならざるを得ないとき…これらが続くと窓口担当者の疲弊感が蓄積します。弁護士や法務への相談は、処分の根拠を固めるため、間違いの少ない対応をするため、というリスク管理の観点もありますが、窓口担当者の背負うものを少し軽くするためでもあると最近思うようになりました。なので、弁護士には、簡単にでも、なるべく相談するようにしています。

5. 思うこと

法務として、内部通報窓口に対応するとき、人事から相談されて対応するとき、そのときは「法的な正しさ」を中心に検討することになります。法に抵触するのか否か、後々紛争に発展する可能性は、その場合の勝ち目は、金銭的負担の程度は。
これに対し、人事は処分後の対象者の将来も配慮します*2。企業人にとって懲戒処分は、相当な重みを持つものですが、処分後にリスタートし、本人も周囲も活躍することまでを考える。いわば、処分からのスタート。単に、“再発防止として、ハラスメント研修への出席を指導しました”ではなく、例えばパワハラならばどのようなタイプで発生し(マイクロマネジメント型、叱責型、ネグレクト型…)、処分対象者本人の本来の強みは何で、今後どのようなアクションによって本人が内心から変化するかを考えます。非常に悩ましく、正解のない問いをぐるぐる回す。処分の根拠となること≒正しさを伝えつつも、一方で正しくはないかもしれないけれど、こう考えた…をいかに経営者や本人に伝えるか。この両面を併せ持つことが現在の課題であります。


毎度ながら悩みのつぶやきエントリでした。次は、@legalcatxxx さんですね!

*1:Business Law Journal 2017.3月号の「紛争リスクの高い労務トラブルへの対応」の5社の記事からもハラスメント系の相談が増加していることが垣間見えます。

*2:法務としても、もちろん配慮するでしょうが、求められていることはやはり違うかと。